目障りなモノ



「最近、事故が多くねぇ?」
 新聞を眺めながら朝飯を食う兄に向かって、テレビのニュースを見ながら俺は話し掛けた。
「んー、そうか〜? どっちかって言うとお前の自意識過剰だろ?」
 卵焼きを箸で探しながらも新聞から目を離さない兄は、そう簡単に言い捨てる。
「自意識過剰って何だよ! 俺は事故の話をしただけで別に自分の話なんか……」
 兄の理不尽な決め付けへの抗議と、適当な対応でなく俺の顔を見て言えというアピールのため、座ったままでは絶対に取れない位置まで卵焼きの皿を持ち上げてやった。
「まぁまぁ、落ち着けって……俺が言ってるのは、お前がこないだ、車にぶつけられそうになったせいで反応が過敏になってるって事だよ。言うなれば目障りみたいなもんだ」
 俺の怒りに気付いた兄は新聞から目を離し、俺をなだめるように珍しく柔らかな口調で話し始める。
「は? どういう事だよ」
 イマイチ要領を得ない兄の言葉に俺は首を傾げた。
「何て言うのかな、今までは目につかなった微々たる事だと思ってたモノでも、当事者になって物が考えられるようになると妙に頭に入ってきやすいって言うのかな? 彼女が出来ると女性が狙われる事件が気に掛かったり、子供が出来ると子供が関係する事件が気になったりとか……そんな感じだな」
 何となく言いくるめられた気もしないではないが、兄が新聞の方に視線を戻してしまったので、俺も仕方なく納得して玉子焼の皿をテーブルに戻して朝食を再開する。
「しかし、最近、家族が家族を殺す事件が多いな……」
 新聞から目を離した兄が、溜息混じりに吐き出した。
「ああ、そういやそうかもな。この間もテレビで特集してたし……」
 兄に新聞を渡す前に軽く新聞をチェックしていた俺の背中を何だか嫌な汗が流れる。
 見出しだけを飛ばし読みした朝刊に目が釘付けになった。
「父さんも母さんも、旅行長引いてるな……」
 兄の言葉が念を押すような冷たいモノに聞こえたのは、ただの気のせい。
 俺が、兄の読み終わった新聞を手に取る気になれなかったのも、学校に行く時間が迫っていただけの事なのだ。


あとがき
初出は2ちゃんねるだったか、それともショートショートの投稿だったか、ハッキリと覚えていません。
でも、とにかく誰かに見て評価してもらおうと書いた短い話だったと思います。
たまにブラック系というか、ホラー系も書くんですが、いつもあんまり怖い物が書けていない気がします。