世界を二分した大3次世界対戦の終結から早10年。
戦後復興も一段落して、街は戦前の活気を取り戻したと評され始めた。
由生「あー、ちょっと遅くなっちゃったな。早く帰らなきゃ」
日暮れたばかりの暑く騒がしい街並みを抜け、橋本由生は自分の家を目指して住宅街へと走っていく。
由生「ただいまー!」
母「由生、おかえりなさい。ギリギリセーフね」
玄関にある掛け時計を眺め、由生の母である凛子はニッコリと笑った。
由生「母さん。大学生にもなって、門限が7時なんてキツ過ぎだろ。もうちょい、何とかならないの?」
父「家族で夕餉を囲むには7時がベストなんだよ。ほら、早く手を洗って食べよう。ゴチソウが冷めちゃうぞ」
廊下を歩きながら溜息をつく由生に、ダイニングから父である三助の声が掛かる。
由生「ゴチソウ? 今日って何かあった……あ、そうか。俺の誕生日だっけ」
母「誕生日に気付いて無かったの? 普通は自分が忘れてても周りが祝ってくれるから思い出すもんでしょ」
テーブルについた由生に向かって、凛子が苦笑を漏らした。
由生「大学が先週から夏休みに入ってんだし、俺の周りなんて父さんと母さんしかいないじゃん」
父「自分の誕生日を忘れるなんて、本当にお前は友達がいないんだなぁ」
三助が由生に向かって同情の目を向ける。
由生「俺が人付き合いが苦手なのは昔からだろ。つーか、誕生日祝いなのに責められるとか訳分かんないんだけど」
せっかくの誕生日に、自分の侘しい友人関係を再確認させられた由生は苛立ちで声を荒げた。今年入学した大学ではまだ大した知り合いもおらず、引越しを繰り返す由生には幼馴染などもいないのである。
母「ゴメン、ゴメン。さ、由生の好きなもの一杯作ったから美味しく食べて頂戴!」
凛子が場の雰囲気を良くしようと、明るい声でテーブルのゴチソウを勧めた。
母「ケーキも終わった所で、お待ちかねのプレゼントよ」
由生「また、どうしようもないもの寄越すんじゃないだろうな。去年はどっかの国のハデハデな民族衣装、一昨年は木彫りの熊、その前は携帯より大きくて重いストラップ……どれもこれも、お待ちかねには出来ないようなプレゼントしか貰った覚えが無いんだけど」
由生はニコニコしている両親に不審の目を向ける。
父「今年は絶対に由生も気に入ると思うぞ。ジャーン、亜姫ちゃんでーす」
自らの口で効果音を演出した三助が、ダイニングの片隅に置いてあった何かから布を取り去る。
由生「人形?」
布の下から現れたのは一体の少女だった。スラリとした手足、大きめの胸に掛かる髪は綺麗なストレート。シンプルなサマードレスを身につけた彼女は、呼吸をする事も無く椅子に座っていた。
母「ううん、アンドロイドの亜姫ちゃんよ」
少女に怪訝な目を向ける由生に、得意気に凛子が答える。
父「どうだ。可愛いだろう。こんな子が彼女だったら嬉しくないか?」
今まで生きた19年間、一度だって彼女の出来た事のない由生に三助が尋ねる。
由生「でも、アンドロイドだろ」
由生は少女のそばにより、目を閉じて動かぬ彼女を頭のてっぺんから足先まで観察した。
母「確かにそうだけどソフト面は充実させてるし、私が開発したパーツを基にボディも構築してあって、何処からどう見ても完璧な娘さんなのよ。それにね、由生の理想の彼女をイメージして作ってあるの。ねぇ、気に入った?」
アンドロイド開発者である凛子は、息子の言葉をソワソワと落ちつかない素振りで待っている。
@確かに理想の彼女のイメージだ
→Bどう見ても理想の彼女のイメージじゃない